ご覧いただきありがとうございます。
御香所燕雀殿の店主、今井賢徳です。
東京・鳥越「薫物屋香楽」さまにて、「香司」※1のご認定をいただき、これからも日本の素晴らしき伝統の文化・「香」の世界を伝えて参る所存でございます。
1500年の時を超えて受け継がれる日本伝統の香り…
それは、香木選定から箱詰めの梱包作業に至るまで、極限まで機械ではなく人間の手にかかることにより、やっと癒しの香りとして皆様の元へ広まって行くと考えています。
産地や熟成期間の違いにもこだわった白檀をはじめ、古く歴史書にも記録のあるその他漢薬原料をベースに、時には奈良・平安時代より伝わる文献に目を通しながら、悠久の時に思いを馳せて調合に時間をついやしております。
本日も、香房ではさまざまな香木の香りの和合が織りなす、幽玄な雰囲気に包まれております。
「世間虚仮 唯仏是真」
これは聖徳太子の遺した言葉と伝わります。
解釈は人により異なると思われますが、これは「世間はどうせみな、嘘なんだ」という単なる世捨て人のような解釈でも、宗教的な解釈でもなく、
世間の価値観にはそもそも万人普遍の真実というものは存在せず、
その人の「概念」、平たく言えば自分が周囲をどう信じているか
=「捉え方」で、
自分にとっての世間というものが、できあがる。
という解釈を最近知りました。私は、宗教者でもその関係者でもありませんが、この解釈が妙に腑に落ちました。
仏、とは私にとってはあくまでも喩えの一つであり、
言ってみれば自分自身の心、すなわち捉え方、と解釈しているのです。
(当店および店主は特定の宗教団体ではなく既存の宗教団体とも一切関係ありません。勧誘やその他宗教活動などは一切致しません。)
最近、脳機能学の領域で聞くようになった「RAS」や、心理学やカウンセリングの領域で聞かれる「悩み事のリフレーミング」なども、この解釈と非常に親和性があります。
ここ最近、自殺者の増加など、ひと昔前では信じられないほど心の問題が表面化している一方で、
有名なものだから間違いはない、とか、効率的で速くて量が多ければよい、とか、
そのような「目に見える」価値観だけでは限界を感じる、という声を聞くことが多くなりました。
私たちは未来のことや人間関係など
「見えない・わからないもの」に対して、不安や恐怖を抱え、
一方で、
「見えるもの」で構築してきた知識や経験だけでは理解ができないことに対して、
悩みもがきます。
近代~現代は、便利さや効率化、量という観点では豊かさが得られる一方、どちらかというと「不安にさせる」方の概念と常に隣り合わせにあった時代であるとも言えるのではないでしょうか。そのような概念が知らず知らずのうち、場合によっては心の「重いゴミ」になりうる「思い込み」を作ってしまい、その結果、本来のあるがままの状態からかけ離れた、自分だけが信じ込んでいる「辛い現実」として私たちは体感してしまうのかもしれません。
そう考えていくと、解釈・聖徳太子の言葉が不思議と私の心に刺さり、気づきを与えてくれたのです。
さて、朝のお参りには香をそなえ、お盆には香とともにご先祖さまを迎えて送る。大切な方が人生の終わりを迎えた際にも、やはり香で見送る。日本伝統のお香の歴史は、「香の文化・日本の心」のページでもご紹介したように、このような目には見えない世界観の文化とともに1500年以上の歴史の中で紡がれてきました。
日常生活をいろいろな思いを抱えながら生き抜く現代の私たち。その日常の、ほんのひと時、このような歴史背景のある香を聞きながら、自分に対しても、世間に対しても、普段とはちがう「捉え方」を発見する。
証明されるのはまだまだ先の未来になるかもしれませんが、天然香木にはそのようなことを後押しする隠れた力がある気がしてなりません。
ここから生まれ出る香りを聞くことで、
何にもとらわれない、あるがままの自分に還って、また日常生活を元気に送ることができますよう。
御香所燕雀殿では日々、このような願いを込めて香の製作・企画の考案をしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
店主 今井賢徳 拝
- 香司:※香木の選定から成形に至るまでお香の製作に関わる全てを担う、お香の専門家 ↩︎